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EP12「Bloody Tears」

 あれは、俺が小学生の時だった。たしか1、2年の頃の話だ。

暁「ねぇ、なんで僕は"あきら"って名前なの?」
光輝「ん?知りたいか~?」

 新聞を読んでいた親父は、それを折りたたんで俺を見た。

暁「うん、先生が宿題だって。」
光輝「鳳覇家はな、皆光とか太陽とかに関係する名前が付いているんだ。」
暁「へぇ~、かっこいい!」

 当時の俺は素直にそう思っていた。

光輝「父さんは"光輝く"とかいて光輝、母さんは夕暮れの空の色を表す"茜"。」
暁「僕は?」
光輝「暁は、日の出の時の空の色を"暁色"っていうんだ。その暁の別の読み方だな。」
暁「暁色・・・、それって綺麗!?」
光輝「あぁ、勿論さ!」

 親父は目を閉じて考えた。

光輝「例えるなら、希望の色かな。」
暁「キボウの・・・色?」
光輝「人っていうのは日の出を見て、いろんな事を思うんだ。
   父さんは日の出を見ると、明日も元気に昇って来てくださいって思うんだ。
   これは父さんの"希望"なんだよ。」
暁「ふ~ん。じゃあ、僕は皆の希望になれるかな!?」
光輝「当たり前だ!なんたって暁は父さんの子供なんだからな!」

 あの時、俺は希望という言葉の重さを痛感できていなかった。俺が希望になる。自分で言って笑えてくる。
希望って何だ。希望はあっても、それは形ではない。なら俺はなれるわけがない。

 俺がドライヴァーになるまで、俺は希望というものから逃げていた。


 EP12「Bloody Tears」


 -AM11:12 リネクサス北極基地上-

グラド「全弾、フルバースト!!」

 カタストロファーの砲門が開く。色とりどりのビームや実弾がアルファードを滅多打ちにした。

暁「ぐぁぁっ!!」
真一郎「ほら、立ってよ暁!!」

 真一郎のエインシードがボロボロのアルファードを掴みあげる。

真一郎「はぁっ!!」

 薙刀がアルファードの腹部を貫通した。

暁「うあああぁぁぁぁっ!!」

 罅割れる装甲、迫り来る衝撃に俺の体は限界に近かった。

暁「輝咲・・・!!」

 腕輪に込めてくれた輝咲の思い、裏切るわけにはいかない。


 -同刻 基地内部-

 私は暗い部屋の中に閉じ込められている。生活に最低限の事はさせてくれるが、とても耐え切れる孤独ではなかった。

輝咲「助けて・・・暁君。」

 私はここに来て、ずっと暁君が助けに来てくれることを祈った。今の私にとって暁君は希望だった。
 その時、ドアがノックされた。

輝咲「・・・はい。」
レドナ「ドアから離れろ。」
輝咲「・・・・?」

 その声はあの時、私をさらった男の声だった。私は言われた通りにドアから離れた。
離れたことを確認すると、ドアが爆発した。

輝咲「きゃっ!」

 煙が舞い、私は頭を抱えてしゃがんだ。爆破した男が近づいてくる。

レドナ「榊、この前はすまなかった。
    だが今回はお前を助けに来た。」
輝咲「え・・・私を?」
レドナ「あぁ、もうすぐそこまで暁が来ている。
    早く逃げるぞ。」

 強引にその男は私の手を引っ張り、部屋から連れ出した。


 -AM11:14 基地上部-

グラド「ふん、しぶとい奴らだ。」

 ビームの嵐は止んだが、誰も立ち上がり反撃できる状態ではなかった。
アルファードも左手が吹き飛び、尻尾は千切れ、頭部は右角が折れていた。

真一郎「暁、もう終り?」

 ボロボロで黒こげのアルファードを右足で踏みつけるエインシード。

暁「うっ・・・くっ、誰・・・が、終るもん・・・・か。」

 強がるが、俺は額から血を流し、とても今の状況を打破できる状態ではなかった。
体の各所が痛む、もしかしたら骨が折れているかもしれない。

真一郎「まだ希望なんて持ってるの?」

 エインシードの薙刀がアルファードの右手を刺した。

暁「俺は・・・希望を捨てない、"暁"だからな・・・・。
  絶対にお前達を倒して・・・・輝咲を、助ける。」
真一郎「ばかばかしいや、じゃあその希望ってのを見せてもらおっかな。」

 エインシードがアルファードを乱暴に蹴り飛ばした。そして倒れているルージュに近づいていった。

真一郎「見せてよ、希望の力を!」

 ルージュのコクピットに突きつけられる薙刀。

結衣「鳳・・・覇君。」
暁「や、やめろ・・・・真一郎・・・!」
真一郎「だから見せてよ、希望の力ってやつを!」

 振り下ろされる薙刀、俺はまた守れないのか。

 俺は、また人の助けを求める声だけを聞いて、何も出来ない存在なのか。

 俺は、人の希望になれないのか。

 気がつくと、俺は赤い涙を流していた。視界が赤く染まる。血であるということは遅れて気付いた。
血の涙は頬を伝い、口元を通り、顎まで達して、アルファードのコクピットに落ちた。
 その一瞬だった。

真一郎「何!?」

 アルファードが光りだした。そしてコクピットの画面に映る文字、-BLOODY MODE-。
そして俺の頭の中に入り込む新たなる情報。

暁「うおぉぉ!!アルファード!!」
グラド「何!?サンクチュアリが動き出しただと!?」

 ボロボロの体のはずなのに、アルファードは立ち上がった。一瞬の光のうちにアルファードの体は完全に回復していた。
光が消えたアルファードの姿は、血のように真紅に染まっていた。
 胸部のレンズパーツの中にXの文字が浮かび上がった。

雪乃「鳳覇君、応答して!鳳覇君!!」
静流「真紅のアルファード・・・だと?」
結衣「鳳覇君・・・。」
佑作「なんだよあれ・・・。」
かりん「ちょっと、マジ・・・?」

 俺は分かった、アルファードの、いやサンクチュアリの本気を。

真一郎「色が変わったぐらいで!!」
グラド「待て、真一郎!」

 突っ込んでくるエインシード。その動きを気持ち悪いぐらいの速度で俺の目が追うことができた。
俺は薙刀の攻撃を片手で受け止めた。

真一郎「っ!?」
暁「破壊する・・・・・。」

 空いていた左拳でエインシードを殴る。頭部が千切れ、粉々に砕けた。

真一郎「な、なんだよこの力・・・・!?」
雪乃「桜さん、ガンカメラで映像記録できる?」
かりん「オッケ・・・やってみる。」

 アーフクラルングは角ばった動きで背中からガンカメラを取り出して撮影を始めた。

真一郎「はぁぁっ!!」
暁「・・・・。」

 再び来た薙刀の攻撃を受け止める。不思議と今のサンクチュアリでどこまでいけるか分かっていた。
その答えは、完全なる破壊だ。

暁「破壊する。」

 サンクチュアリの手が光り、受け止めていた薙刀を粉砕した。

修「まさか、あの力が・・・。」
ヒルデ「エルゼが言っていた、完全覚醒・・・!?」

 武器を失ったエインシードは後に下がった。だが真紅のサンクチュアリがすぐに追いつく。

真一郎「な、何だよ・・・・や、やめろ!!」
暁「終りだ。」

 真紅の両腕でエインシードに掴みかかる。振り払おうと左右にエインシードが揺れるが、すでに爪が装甲に食い込んでいる。

暁「サンクチュアリ・クラスター・・・。」

 肩と膝が展開する。サンクチュアリ・ノヴァの時とは違う。ノヴァの光が装甲表面だけに展開している。
装甲表面上のノヴァは、触れているものを次々に消滅させていった。

真一郎「やめろ!!離せ!!僕はまだ―――。」

 真一郎の言葉が最後まで終わる前に腕はエインシードのコクピットまで貫通し、搭乗者を消し去った。
腕を引き抜くと、エインシードは爆発した。

ヒルデ「ったく、何なのよアイツ!」

 陽電子砲がこちらを捉える。すぐに陽電子の砲撃が来たが、俺は動じることはなかった。
左の掌でビームを受け止めた。ビームは指の間をすり抜けてサンクチュアリに当たることなく粉砕された。

ヒルデ「うそ!?」

 砲撃の方向を確認し、陽電子砲を撃ってきたエインシードを確認した。

暁「破壊する・・・。」
ヒルデ「ちょ、ちょっと!?」
グラド「俺がやる。」

 カタストロファーが砲門を全て展開させて、こちらを捕捉した。

グラド「ファイア!!」
暁「遅い。」

 カタストロファーの攻撃、俺にはそれが低速に見えた。いや、実際に俺以外の時の流れが遅くなっている。
カタストロファーの砲門が光る、発射される前にサンクチュアリはカタストロファーに近づいた。

グラド「!?」
暁「はぁっ!」

 まだサンクチュアリ・クラスター状態のままで、カタストロファーの頭部を殴る。頭は吹き飛び、本体は地面に倒れこんだ。

グラド「何故この距離に!!」

 発射されかけていたビーム砲は上空に消えていった。そのまま倒れたカタストロファーに蹴りを入れる。

グラド「ぐっ!!」

 再び倒れたカタストロファーの胸部を掴み上げる。掴んだ部分からどんどん消滅していく。

グラド「くそぉぉぉっ!!!」

 すぐにカタストロファーは爆発し、粉々に砕け散った。

修「う、嘘ですよね・・・・。」
ヒルデ「どこいったの!?」

 俺はすぐに陽電子砲を構えたエインシードの背後に回った。

修「ヒルデ!後!!」
ヒルデ「ぇ――。」

 振り向き、俺の姿を見る前にエインシードは爆発した。

修「ヒルデ!!うああぁぁ――。」

 2本の太刀を持つエインシードも続けて爆発した。

暁「・・・やった・・・のか。」

 あまりにも短時間の出来事で、俺の頭は全ての情報を正確に処理できていなかった。
サンクチュアリは色を元に戻し、ノヴァを放つために開いた装甲も閉じていた。


 -同刻 ポセイドン付近-

乗組員「副司令、本艦に接近する機影有り、エインヘイトです!」
雪乃「何ですって!?
   すぐに魚雷用意、鳳覇君に帰還命令を!」
乗組員「了解!
    ・・・これは、エインヘイトから通信が入っています。」
雪乃「繋いでちょうだい。」

 モニターにエインヘイトの搭乗者の顔が映し出された。

レドナ「榊 輝咲を連れて来た。」
輝咲「有坂さん!」
雪乃「榊さん、大丈夫なの!?」

 エインヘイトのコクピットの中に居る輝咲に雪乃は驚いた。

輝咲「はい、私は大丈夫です。」
レドナ「浮上してハッチを空けてくれ、榊をそちらに収容する。」
雪乃「分かったわ。ところで、君が夜城君?」
レドナ「あぁ、そうだ。
    作戦変更の件は悪かった、俺がそっちに接触しているのがバレていたらしい。」
雪乃「そうだったの・・・。」

 エインヘイトはポセイドンの真上に着地し、コクピットを空けて輝咲を出した。

-

輝咲「夜城さん、ありがとうございました。」
レドナ「いや、せめてもの罪滅ぼしだ。
    悪かった、怖い思いをさせて。」

 夜城さんも一礼して謝った。脱出する時に少し話しを聞いたが、夜城さんは悪い人ではないようだ。

淳「お~い、榊君!」

 ポセイドン上部ハッチから佐久間さんが出てきた。

輝咲「佐久間さん!」
淳「大丈夫だったか?」
輝咲「はい!」

 私は佐久間さんの所へ駆け寄った。濡れているポセイドンの上は少し滑りやすかった。

淳「夜城君だね?榊君を助けてくれたことは感謝するよ。」
レドナ「感謝されるようなことはしていない。まだ俺には借りがある。」

 夜城さんは再びエインヘイトのコクピットに座った。

輝咲「夜城さんは、これからどうするんですか?」
レドナ「俺はまたレイナを助け出すまでリネクサスに従わなければならない。
    悪いが、もう一度ARSの前に"敵"として立ちはだかるだろう。」
淳「最後に一つ聞いていいかい?」
レドナ「何だ。」

 夜城さんはコクピットから顔を覗かせた。

淳「君は軍に背を向けて、自発的に榊君を連れてきたね?
  君は自分の機神を持っているにも関わらず、エインヘイトでここまで来た。
  機神はリネクサスの手の内にあるからサモンしたらすぐにばれる。」
レドナ「当たりだ、だがもう一つ付け加えておこう。
    機神で接近すると、ARSも迎撃体制を厳重にする。
    だがエインヘイトで、それも水中では潜水艦の方が戦闘では有利だ。
    ならばこちらを迎撃する前に通信を開いてくれる余裕ぐらいは生まれるはずだからな。」
淳「君、やるねぇ・・・。」
レドナ「じゃあ、俺はもう行く。」
輝咲「夜城さん!力になれる事があったら、いつでも言ってください!」

 夜城さんの返事は無かった。夜城さんが乗ったエインヘイトは再び水中に潜った。

淳「夜城 レドナ君か・・・敵にしておくには惜しいかなぁ。
  さてと、じゃあ次は皆の回収に向おう。榊君もちょっと手伝ってくれるかい?」
輝咲「はい!」


 -AM11:18 ポセイドンハンガー-

淳「こりゃ酷いな・・・。」

 ボロボロの機体を見て、淳が呟いた。淳は機体改修用の作業機人に乗っている。

淳「そして、機神のドライヴァーはもう回復っと。」

 俺と神崎を見て言った。機神のドライヴァーの回復力は相当なものだった。傷は無くなり、痛みも小さくなった。
まだ疑似機神のドライヴァーの方は浅い傷口が残っいるため、鈴山と寺本と桜は医務室へ運ばれた。

茜「暁!!」
暁「げっ・・・お、御袋。」

 そういえば腕を取られたら減給とか言っていた。だが俺のアルファードは元どおりだ。あの真紅の光のおかげで。

茜「何なのよ、あのスペック!!」
暁「は?」

 御袋がノートパソコンを取り出した。

茜「スペックは2倍、いや2.5倍!それに移動速度なんか8倍になってるわ!
  なんでこんな力隠してたの!?」
暁「か、隠してたも何も・・・。」

 俺だって真紅のアルファードなど初めて見た。あんな力が秘められている事すら今日初めて知った。
でも気になることが一つ。確かに画面にはBLOODY MODEと書かれていた。血という意味で赤というのは想像できる。
だがそれが発動したのは俺が血の涙を流したから。

暁「そうだ・・・血の涙・・・。」
茜「え?」
輝咲「暁君!!」

 その時、ハンガーの入り口から輝咲が駆け寄ってきた。

暁「輝咲!」

 そう言えば、輝咲は何故ここにいるんだろう。

暁「どうしてここに?」
輝咲「夜城さんが連れて来てくれて。
   自分が接触したのがバレて作戦が変わったことへの罪滅ぼしだって言って。」
暁「レドナが・・・。」

 やはり、レドナは裏切ったわけではないようだ。だとすると、レドナの姉さんが危ないのでは。
その危険を背負ってまで輝咲を助けてくれたというのか。

暁「・・・・・うっ。」
輝咲「暁君?」

 何だ、この痛み。

茜「暁!?」

 俺は地面に倒れこむ。頭が捻じ曲がるように痛い。

静流「どうした、鳳覇!」
暁「あああぁぁぁぁっ!!!!」

 時の流れがおかしい。俺を呼ぶ声が早く聞こえたり、遅く聞こえたりする。眼前に広がる景色それぞれに時間差がある。

輝咲「暁君!!暁君!!」
静流「鳳覇さん、医務室に連絡を。」
茜「えぇ、分かったわ。」

 何を話しているんだ。ついに人の言葉の一文にさえも時間差が生じている。もう何が何だか分からない。
時間って何なんだ。何なんだこの歪みは。この歪みがこの苦痛を与えてくるのか。

暁「あぁぁぁぁっ!!!うぐっ!!」

 突然首筋に走る痛み。一瞬にして俺の意識は吹っ飛んだ。

-

輝咲「神崎さん・・・。」
静流「苦しむより意識を飛ばした方が楽だろう。
   今の苦しみ方、尋常じゃない。」

 神崎さんは暁君に平手打ちをして気絶させた。
 それからすぐに、医務室の方たちがタンカーを持って暁君を医務室に運んだ。


 -AM11:24 ポセイドン内医務室-

明美「はい、どうぞ。」

 ARSの医務員、"日向 明美(ひなた あけみ)"先生が私の腕に包帯を巻いた。

結衣「ありがとうございました。」

 私と寺本君と桜さんと医務室で手当てを受けていた。

かりん「ったく、リネクサスも相当性質悪くない?」
佑作「ホントっすよ、俺も頭来た。ゲッシュ・フュアーが治ったら叩き潰してやる。」
結衣「まぁまぁ、桜さんも寺本君も落ち着いて。
   今は命が助かったことを喜ぼうよ。」

 その時、医務室のドアが開いた。鳳覇君のお母さんと輝咲ちゃんと神崎さんが入ってきた。

茜「明美先生!暁が・・・!!」
明美「茜さん、暁君がどうかしたんですか?」

 タンカーが運ばれてくる。上に乗っているのはぐったり横たわっている鳳覇君だった。

佑作「ほ、鳳覇!?」
かりん「ちょっと、やばくない?」
明美「顔色が悪いわね、そこのベッドに寝かせてくれる?」

 タンカーを運んできた医務員が鳳覇君をベッドに寝かせた。

明美「茜さん、鳳覇君はどうして・・・。」
茜「分からないわ、ただアルファードから降りて少し話してたら急に苦しみだして・・・。」
静流「私が鳳覇を気絶させた、苦しむより寝ていたほうがいいだろう。」
明美「そう、何か思い当たる節はありますか?」

 鳳覇君のお母さんは考え込んでいた。

結衣「あの・・・もしかしたら、あの赤いアルファードと関係が。」
明美「アルファードって、鳳覇君の機神のことかしら?」
茜「えぇ、さっきの戦いでアルファードが赤く染まったの。
  それだけじゃなくてスペックが倍以上に跳ね上がったのよ。」

 再び医務室のドアが開いた。有坂さんがノートパソコンを脇に挟んでいた。

雪乃「鳳覇君は?」
明美「今気絶して寝てるわ。」
雪乃「そう、それならいいんだけど。」

 有坂さんは持ってきたノートパソコンを机の上で開いた。画面には吉良司令が映っていた。

剛士郎「諸君、心して聞いてくれ。今から話すことはとても重大なことだ。」
輝咲「暁君の事、ですか・・・?」

 吉良さんは黙って頷いた。

剛士郎「まさかとは思っていたが、鳳覇君は普通のドライヴァーとは違う。
    普通のドライヴァーとは違うイレギュラーな存在"X-ドライヴァー(イクスドライヴァー)"だ。」
佑作「イクスドライヴァー?」
輝咲「司令、それってまさか!?」
結衣「輝咲ちゃん、知ってるの?」

 輝咲ちゃんの顔が焦りの色に変わった。恐る恐る頷く。

剛士郎「X-ドライヴァーは大変な存在だ。
    榊君達が居る世界のリネクサスのドライヴァーだ。」
静流「では、鳳覇は未来から来た・・・とでも?」
茜「待って、暁はきちんと私の子供よ!
  出産のときの写真だってあるわ。」

 鳳覇君のお母さんがそれを否定した。

剛士郎「それは分かっている。もちろん、茜君もこの時代の人であることもだ。
    だが、ブラッディーティアーズを使え、さらに他人の機神のドライヴァーになれる事はX-ドライヴァーを証明している。」
佑作「それって、榊さんが本当のアルファードのドライヴァーってことですか?」
剛士郎「あぁ、鳳覇君は全ての機神の第2ドライヴァーと強いて言える。
    きっと彼は神崎君のスティルネスにも難なく乗れるはずだ。」
茜「さっきのブラッディーティアーズっていうのは?」
剛士郎「血の涙を流し、搭乗機神を真紅に染め上げて機動性能を格段にアップさせ、瞬間的な時間拡張をすることができる。
    時間拡張した状態では我々の10秒を彼は20秒として感じることが出来る。
    そしてそれをやめたとき、我々は1分のときを終えたが、彼は2分の時を終えていることになる。
    つまり彼は進みすぎた時間を圧縮させて今の時間に合わせようとする。その時間差が今の鳳覇君の苦痛になっているんだ。」
かりん「う~ん、話し戻すんだけどさ、結局暁はリネクサスのドライヴァーなわけ?」

 ずれかけた話を桜さんが戻した。

輝咲「そんなはずありません!
   暁君は絶対にリネクサスなんかじゃ・・・。」
剛士郎「いや、残念だが・・・。
    鳳覇君は、榊君の世界に存在する"リネクサスの一員"だ。
    それに彼の立ち位置はエルゼの右腕として活躍している"破壊神"だ。」
輝咲「!?」

 皆、嘘だと言わんばかりの顔をした。私だって信じられない。

剛士郎「だが、それは榊君がこの世界に来ていない世界での将来だ。
    今彼は榊君と出会い、様々な人と出合ったことでこの世界軸ではリネクサスにはならないだろう。」
茜「じゃ、じゃあ、もし出会わなければ暁はリネクサスに関与する機会があったってこと?」
剛士郎「そういう事になる。」
輝咲「暁君が・・・私の世界を・・・。」

 輝咲ちゃんが力なく倒れて泣き出した。

結衣「輝咲ちゃん・・・。」

 私はそれを抱きしめた。輝咲ちゃんは私にしがみ付いた。

暁「俺が・・・リネクサスに。」
茜「暁、起きてたの!?」

 鳳覇君がベッドから体を半分起こした。

結衣「だ、大丈夫だよ。今からの鳳覇君はリネクサスなんかじゃ・・・。」
暁「いいよ、気ぃ使わなくて。
  結局俺は皆の希望になんか、なれやしないんだ・・・・!!」
明美「ほ、鳳覇君!!」

 鳳覇君はベッドから飛び降りて、医務室を出ていった。

剛士郎「今、"皆の希望"と言ったのは?」
茜「暁の名前の由来よ、父が決めたね。」
結衣「鳳覇君・・・。」

 輝咲ちゃんが私今以上に力強く抱きついた。


 -AM11:28 ポセイドン内部 休憩室-

暁「俺は・・・・。」

 飛び出てきたのはいいが、俺はこれからどうするのだろうか。自分の未来がリネクサス。
そして未来の俺は輝咲の世界を脅かす存在。ならば、俺は消えればいいのだろうか。

暁「破壊神・・・。」

 全てを破壊する存在。確かに俺はあの力、ブラッディモードを駆使できればこの世を消滅させることも簡単だろう。
だが、俺はそんなことをするためにドライヴァーになったのではない。
 自分が分からない。俺はガクっと頭を下げた。

暁「輝咲、俺は・・・どうすればいい。」

 長袖の制服を捲って、腕輪を見た。


 -同刻 リネクサス巡洋艦ギルヴァウス内部-

エルゼ「やぁ。夜城 レドナ。」
レドナ「何の用だ。」
エルゼ「そろそろ君の消費期限が切れそうだ。
    最後に一つ、盛大な食卓に並ばせよう。」

 エルゼがニヤけながら言った。

エルゼ「ARS本部を叩き潰せ。」

 やはり、この任務が来ると思った。覚悟は出来ている。世界の全てを敵に回しても俺は、レイナを守る。
暁には悪いが、消えてもらう。

レドナ「・・・・分かった。
    だが――。」
エルゼ「分かっている、夜城 レイナはこの作戦が成功してからだ。」
ナーザ「もしもの場合は私が始末する。」

 エルゼの傍らにいるナーザが俺を冷たい視線で見た。

レドナ「もう失敗はしない。
    絶対にサンクチュアリを撃つ。」

 俺の機神ではそれができる。俺はあえてARSに対策をとられないように秘めた力を使わなかった。
いや、使うタイミングが無かったと言ったほうが正解か。

レドナ「襲撃はいつするんだ?」
エルゼ「今すぐにだ。奴らの疑似機神はまだ修復途中だろう。
    スティルネスが厄介だが、あの傷ならばまだ完全回復にはいたらない。
    サンクチュアリはすでに傷は癒えているはずだ。」
レドナ「分かった、すぐに出る。」
エルゼ「あぁ、頼んだよ。」

 俺は来ていた黒いコートを翻して、エルゼのいる部屋を出た。

-

エルゼ「ナーザ、脅しはいらない。
    負けるか逃げるかしたら、すぐに夜城 レイナは殺せ。」
ナーザ「分かりました。
    私も後ほどヘカントケイルで出ます。」
エルゼ「あぁ、そうしてくれ。
    万が一のためにディックも向わせる。」
ナーザ「はい。ですがディックに出番はないとお伝えください。」

 ナーザは一礼して部屋を出た。

エルゼ「こちらとしても、手持ちの"機神と機人"以外の力は見せたくないのだがね。」

 エルゼはパソコンに通信画面を出した。

エルゼ「ディックか、急用が出来た。軌道修正してギルヴァウスに来てくれ。
    ちょっと頼みがある。」
ディック「あいよ!んでも、何でまた?」
エルゼ「少しイレギュラーな展開が発生してね、なかなか面白い事になっている。
    まぁ、こっちに来た時に直接話そう。」
ディック「分かったぜ!じゃ、後でな。」

 通信が切れ、パソコンは元の画面に戻った。

エルゼ「さて、流れる血は誰のものかな・・・ふっ。」


 -AM11:30 ギルヴァウスハンガー-

レドナ「決着だ、暁・・・。」

 目の前に立っている漆黒の龍を見上げた。どうしてか、胸が苦しくなった。
 やはり、人と出会うのは嫌だ。別れが来る時に辛くなる。変な感じだ、決着を着ける覚悟はできていたのに。

レドナ「待っててくれ、レイナ。」

 俺は虚無のように漆黒の色をぎらつかせる、黒龍に乗り込んだ。後戻りできない深い闇の中へと。


-EP12 END-


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